「くだらないな、と彼は言う。
消え入りそうなささやき声で。
鼓膜を震わすほどの怒鳴り声で。
そう確かにくだらない。
随分前から僕も同意見なんだ。」
街を歩く。
視界は世界を認識する。
認識された世界は常に表の世界。
意識しなければ、それが表層なのだと気付かない。
ファインダーを覗いた先の光景が、ニセモノだとは思わない。
でも表裏は無条件に一体じゃない。
ショーウインドウの反射の向こう側に、テールランプの赤い光線が流れてゆくその刹那に、意識を集中する。
引き剥がされた世界の裏側の破片が僕を見ているような気がするから。
向こう側に、僕もいるのかもしれない。
同じように向こう側から、ファインダー越しに僕を捜しているのかもしれない。
僕と同じく僕も必死で捜しているに違いない。
僕は本当の僕に会いたい。
愛したい。
願いはただ、それだけなんだ。
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